第7章 嘘つきの本当
王馬は夢野が落としていった小さな紙袋を手にして、それを持ったまま、ゴミ箱へと向かっていく。逢坂の横を通り過ぎた時、ガッと逢坂の手が王馬の手首を捕まえた。
『まさか捨てないよね?』
「…何がまさかなの?捨てるよ、いらないし」
『昨日夢野が頑張って作ってたの見てたでしょ?毒なんて入ってるわけないし、明日捨てられてるのを見たらあまりにも可哀想だよ』
「じゃあ逢坂ちゃんが食べれば?」
『……これは王馬に向けて夢野が贈ったものでしょ?いらない』
「どっちもいらないなら必要ないよね。捨てるよ」
『…ちょっと!』
放って投げようとした彼の手も、反対側の手で掴んだ。二人の間に、ゴト、という音を立てて、紙袋が落下する。逢坂と王馬は向かい合って立ち、両手を繋いでいる不思議な体勢になり、逢坂は少し王馬から目を逸らした。
「触らないでくれる?今日はそんな気分にはなれないや」
『……なら、力づくで離れれば?』
「夢野ちゃんとの鬼ごっこで疲れてるんだよ、だから逢坂ちゃんから離れてよ。手を掴んでるのも逢坂ちゃんだし、オレにどうしろっていうの」
『捨てちゃだめ』
「…なんでそんなこと言うの?」
王馬は深く息を吸い込んだ。深呼吸だと気づいた時、王馬は逢坂を恨めしそうに睨みつけて、声を荒げた。
「なんで逢坂ちゃんにそんなこと言われなきゃなんないの?オレのこと好きって言ってる子からこんなもの貰ってるんだよ?ちょっとは焦ったりスネたりしてくれたっていいじゃん!オレを好きで作ってくれた気持ちを大切にしろって言うけどさ、逢坂ちゃんへのオレの気持ちはどうなるの」
『…別に、王馬の気持ちを踏みにじったりはしてない』
「他の異性の動きに無反応なのもオレに興味ない証拠でしょ?昼間はオレより最原ちゃん、放課後はオレより夢野ちゃんって、オレへの好意は所詮その程度ってことだよね」
『最原を選んでなんかいないし、夢野が王馬より大切ってわけでもないよ。私は…王馬が好きだよ』
「……っ」
珍しく、王馬が怒気を強めても逢坂は狼狽しない。とても冷静に、穏やかに王馬の刺すような言葉を訂正していく。