第7章 嘘つきの本当
「だからさ、本当にそれくらい好きな子が出来たら…オレは毒ぐらい無理やり飲ませるかもね。殺したくらいで手に入るなら、簡単だよ。オレは悪の総統だし、それくらいのことはもう何度も経験してるしね…」
で、夢野ちゃんはそんなオレと付き合いたいんだっけ?と、王馬が聞き終わる前に、夢野は「義理じゃあ‼︎」と言い切って、鞄を掴んで教室から飛び出していった。
(……嘘だ)
話を聞いていた逢坂は、王馬の嘘に軽くため息をついた。そこでようやく、上靴を脱いで廊下を歩けばいいのでは、という案を考えついた。その場でしゃがみ靴を脱いで、そのまま1-aに背を向けた瞬間、背すじに冷やっとした悪寒を感じた。
『………………こ…こんにちは…』
振り向いて、すぐ背後から見下ろしてくる王馬を見上げた。彼は無表情で逢坂を見つめ、なにしてるの?と問いかけてくる。
『……あ……謝りたくて』
「何を?」
『……その…今日のこと』
「ねぇ、逢坂ちゃんって馬鹿なの?同じこと聞かせないでよ。今日の何を謝りたいの?」
完全に、グレている。全く笑おうとしない王馬に、あれこれと謝罪の言葉を考えた。しかしあれだけ長い間彼のことを考えていたのに、彼が一番怒ったのはどれだったのか見当をつけ忘れていた。
『……あの…ちゃんと天海の誘いを断らなくてごめん』
「は?」
『あれ……最原を誘ってごめん』
「時間の無駄だね。オレは帰るよ」
『……?……待って、王馬を誘わなくてごめん』
「話しかけないでよ、今オレは逢坂ちゃんの顔なんて見たくないんだから。今日オレから避けられてるのわかってたでしょ?なんで追いかけてきたりするかなー、大してオレのこと知りもしないくせに」
突き放されて、呆然とする。しかし逢坂は冷静に、王馬の言うことも最もだと思った。
『……知らないのは、王馬が嘘をついて隠すからでしょ?』
「………」
『王馬が嘘をついてることまではわかるけど、じゃあ本当のことはなんなのかなんてことまで分かったら、それはエスパーだよ』
「……オレが嘘をついてるかどうかさえ逢坂ちゃんにはわからないじゃん。わかったふりしないでよ」