第6章 本当の嘘つき
「ボクは、この気持ちが人間の間に発生する「恋」という症状ではないかとーー」
「恋じゃないよ」
「……え?」
キーボくんは僕を見つめて、そうでしょうかと問いかけてきた。僕はできる限り自然に笑みを作って、彼を説得した。
「恋じゃない。大丈夫だよ、それは仲のいい友達に向けて感じる情と変わらないから」
「そうなのですね。最原クンが言うなら、間違いありませんね」
「うん、だから安心していいと思うよ」
そう話して、二人でまた階段の下に視線を向けると、そこには真剣な顔をした王馬くんが立っていた。
「…キー坊、逢坂ちゃんが呼んでるよ」
「え?あ、はい!すぐ行きます」
駆け下りていくキーボくんの後を追わず、王馬くんは僕を見上げて、見たこともない暗い顔で笑ってみせた。
「なんであんな嘘ついたの?」
「……どういうこと」
「もしかして最原ちゃんってオレより嘘つきだったりするんじゃない?可哀想に、キー坊は嘘つきな最原ちゃんを信じちゃったせいで、また一つ成長する機会を失ったね」
「…ロボットが人に恋することが成長なの?そんなの、彼が苦しむに決まってるのに、教える方が残酷だ」
「でもさ、もともとキー坊のこと、最原ちゃんは邪魔だって思ってたよね?最原ちゃんがオレに対して向ける視線がそうなのはまだ理解できるけど、ロボットに対しても嫉妬するの?疎ましく思ってたくせに、キー坊が苦しむのは見てられないの?随分都合のいい話だよねー」
「……何がいけないんだ」
「え?」
「……ロボットに嫉妬して何がいけないっていうんだ」
僕のその反応を見て、王馬くんは一瞬きょとんとした後、本当に愉快そうに笑った。
「あはははは!ロボットが恋したら許さないのに、自分は嫉妬してもいいんだ⁉︎ロボットの恋路まで邪魔するなんて、どれだけ余裕ないのさ最原ちゃん!」
「少し黙っててくれよ!」
「黙らないよ。でもつまらなくはないから、最原ちゃんが逢坂ちゃんの大切なキー坊のこと、ずっとどう思ってたのかは「今まで通り」黙っておいてあげるよ。その代わり、オレの邪魔はしないでよね」
逢坂ちゃんを傷つけたくないよね?と、彼は僕を見透かすように楽しそうに笑って、大胆不敵に、自身が一番執着しているはずの人を人質に取った。