第6章 本当の嘘つき
天海くんの言葉に背中を後押しされるかのように、僕は教室を出て行った逢坂さんを追いかけた。思い出したくない感情と、記憶が湧き上がって、冷静ではいられない。
どうしてロボットなんて。なんでそこまでして。あの時も、そうだった。怒鳴り散らしてやりたい衝動が湧き上がってきても、言葉が喉に詰まって出てこない。
いつも、いつだって僕はそうだ。自分で自分が嫌になる。言葉にしないくせに、理解して欲しがって。そんなのわかるわけないのに。
「待って…!逢坂さん!」
階段の踊り場で、彼女の手を捕まえた。追いかけてきた僕に驚いた逢坂さんは振り返って、大きな瞳で僕を見つめた。息を切らしたままの僕を心配してくれる彼女に、手のひらを向けて、心配ないよと身振りで伝えた。
「あのね、実は…」
『……なに?』
「僕は………」
言葉が、出てこなかった。ここまで追いかけてきて、僕は何を伝えたかったのだろう。彼女の気持ちはもう王馬くんに向いているし、僕は友達として一番近くにいることもできていないのに。
「………僕は……」
ふと、また記憶の断片が頭の中を横切った。僕はじっと、彼女を見つめて、握った手に力を込めた。
「僕は、嘘つきだよ」
『……え?』
「だから、王馬くんはキミに嘘なんてついてない」
『…何言ってるの?』
「違うんだ、僕は嘘つきなんだよ」
そうだ、僕は
あの時も、嘘をついた
「ボクは、出来る限り博士の体温を感じていたい」
その言葉を聞いた時、僕は自分の耳を疑った。
「ずっと手を繋いで話をしていたい。王馬クンよりも、ボクの隣にいてほしい」
まるで自分の心を映したような彼の言葉に、心臓が高鳴るのを感じた。
「そんな気持ち、最原クンは知っていますか」
(……うん、僕も知ってるよ)
そう、答えてあげようと思った。けれど、言葉を続けたキーボくんの声をかき消すように僕が発したのは、別の言葉の羅列だった。