第6章 本当の嘘つき
逢坂さんがまた学校に来るようになったのは、電話をした2週間後。彼女は僕に愛想をつかせて、何も言わずに去っていったわけではないようだった。それから逢坂さんと、逢坂さんがいない間に仲良くなった赤松さんと、過ごすようになった。三人で一緒にいるようになって、中学三年になったある夏の日。三人で進路の話をするようになり、既に天才ピアニストとして各国を飛び回っていた赤松さんから、ある事実を聞かされた。それは、逢坂さんが、将来有望な科学者の一人として世界に認められているということ。
彼女はずっと本当のことを言っていたのに、僕は信じようとしなかった。そのことが申し訳なくて。謝りたかったけど、謝ってしまったら、きっと逢坂さんを傷つけてしまうんじゃないかと思って、言えなかった。
『ねぇ最原、今日は寄り道して帰ろうよ』
一番側にいたのに、誰よりも彼女を騙していた。自分が凡人過ぎるせいで、彼女の才能に気づくことができなかった。来る日も来る日も、最低な奴だと自己嫌悪する日々。
「……うん、いいよ」
かといって、彼女の側からいなくなることもできなかった。それどころか、たくさん遊びに誘って、たくさん話をした。彼女が家に帰って、誰もいない部屋で独り、黙々とロボット製作を続けている姿を想像したくなかったから。彼女に笑顔を向けられると、どうしても離れがたい気持ちに駆られたから。
「はじめまして、最原クン。僕はキーボ、博士の生み出した最新人型ロボットです」
そんな日は、唐突に終わりを告げる。
高校に入って、彼女との距離が離れて数ヶ月目。僕は初めて、彼女の「作品」を目にした。
「わー!すごい、本当の人みたーい!」
「やっと出てきたか。おいキーボ、主人を起こしてくれよ、オレも創作作業に戻んなきゃいけねーんだから」
「素晴らしいよ!超高校級の才能を持つ彼女が生み出した、超高校級のロボットを見ることができるなんて!」
「すごい高性能なんすね。それより、逢坂さんは寝てるんすか?」
「うわー悪用のしがいがありそうだよ!ねぇねぇ、お前のセキュリティコードの解き方オレに教えてよ!面白くプログラミングし直してあげるからさ!」
「教えません!」