第6章 本当の嘘つき
天海くんは、小さな箱に入ったそのチョコレートを見て、出来る限り嬉しそうに笑った。僕はそんな彼の態度を見て、まるで自分のことのように悲しくなってしまう。はい、と彼女に手渡された箱を眺めて、僕は、素直に喜ぶことができない。
「…ありがとう」
天海くんと同じ箱。天海くんと同じ数のチョコ。どこからどう見ても、彼女が特別な相手に渡すものには思えない。いつもなら、貰えるだけで嬉しいはずなのに、今年は違った。
「……あれ。王馬君はどうしたんすか?」
『…怒ってどこか行っちゃった』
「怒って?…俺が言うのも変っすけど、それは追いかけたほうがいいっすよ」
『……』
「王馬君が本気で怒るのなんて、逢坂さんだけっすから」
『………そうかな』
「はい」
逢坂さんは少し考えて、彼を探してくる、と僕と天海くんに伝えて、去っていった。
「天海くん、本当にいいの?」
そう聞いた僕の顔を見て、天海くんは不敵に笑った。
「よくないのは、最原君っすよね?」
僕は彼の言葉を聞いて、表情を失った。僕のその様子を見て、天海くんは笑みを崩すことなく、逢坂さんがくれたチョコレートを口にした。そして彼は、僕にだけ聞こえるように呟いた。
そのチョコ、要らないならあとで俺にくださいね、と。