第6章 本当の嘘つき
「…逢坂さん、追いかけたら?」
昼休みの喧騒の中。僕は彼女に聞こえなければいいのに、と思いながら、提案した。彼女はピクリと動き、身体を起こして僕を見つめた。
『なんて言えばいいの?ごめん、イブイブだって知らずに天海と遊んで、イブだって知らずに王馬を誘ったんだ。今日は王馬と遊べたらいいなと思ってるから、天海とは遊べないやって?』
「…あぁ…クリスマスに2人と遊んだのは勘違いだったんだ。そこまで本当のこと話す必要ないんじゃない?今日の予定について思い通りにいかなくて怒ってるのは王馬くんだけだし。天海くんは、クリスマスのことを知ってショックだっただけみたいだし」
『……』
「でも、どうして逢坂さんは王馬くんがいいの?」
『…え?』
「今日、一緒に遊ぶって一般的に見たらそういう雰囲気がある2人って認識になってもおかしくないよ。逢坂さんは、王馬くんとそうなってもいいの?」
『……なれればいいなと思うよ』
「ーーー。」
一瞬、息が詰まった。鼓動が早まって、周りの喧騒が遠のいていく。僕はぐらつきそうな視界に左右されないように目を瞑って、すぐに平静を装った。
「…どうして、王馬くんなの?」
『え?…どうしてって』
「…なんでもないよ」
逢坂さんがまた口を開こうとした時、さっきまで王馬くんが座っていた座席に、天海くんがガタッと座った。突如現れた彼に、僕たちは一瞬驚いた。
『あ、天海。…あの…』
「その話はもういいんで、チョコください」
『……え?』
天海くんは苦笑しながら、さっきはすいません、と謝った。
「なんつーか、王馬君と逢坂さんの仲はなんとなく理解してたつもりなんで。俺は自分の気持ちを隠すのはやめようって決めたけど、それ以上を望んでるわけじゃないっすから」
『……あ、ありがとう』
「あ、許すかどうかは逢坂さんのチョコの味にかかってるんで」
『え?』
「もちろん、義理チョコくらいは作ってきてくれてるっすよね?昨日俺らがいる間はなんやかんや作ってくれなかったっすけど」
逢坂さんは少し泣きそうになりながら、コクコクと頷いた。最原にもある、と追加で僕にも報告をした後、彼女は紙袋の中からチョコレートの入った小さな箱を二つ、取り出した。
「あ、トリュフだ。俺好きなんすよ」