第6章 本当の嘘つき
いつからか、僕は逢坂さんと過ごす時間がとても大切に思えるようになっていった。
『あのさ、どうして最原は私の話信じるの?』
「…え?」
『…突拍子も無い話だって自分でもわかってる。でも最原は嫌な顔しないで聞いてくれるよね。どうして?』
「……どうしてって…」
彼女と出会って二年目の冬。いつも通り登下校をしていたら、彼女がそんなことを口にしてきた。正直反応に困って、僕は帽子を深く被り直した。
「…誰にだって誰かに聞いてほしい話はあるし、それが嘘でも本当でも、キミが僕に話そうって思ってくれたことなら、僕はキミの言葉に耳を傾けるよ」
『嘘だと思った?』
彼女は白い息を吐きながら、僕をじっと見つめ、足を止めた。僕はとっさに、そんなことないよ、と嘘をついた。
「信じてるよ」
彼女のまっすぐとした視線が僕を見透かしてくるようで、居心地が悪かった。冷静を装って、彼女に真剣な表情を向けた。
「どうして僕を疑うの?誰かに何か言われたの?」
『……ううん、なんでもない』
彼女は、どうして僕が彼女の言葉をそこまで聞こうとするのかは、問いかけてこなかった。聞かれてもきっと僕は顔から熱を発して押し黙ってしまっただろうけど。
その日を境に、彼女は学校に来なくなった。いろんな人に理由を聞かれたけど、僕があんなことを言ったせいだとは言えなかった。けれど唯一、僕に食ってかかる女の子がいた。
「ねぇ最原くん、逢坂さんが来なくなる前日、一緒に帰ってたよね?その時何か話したりしなかった?」
学年でも数人しかいない音楽コースを選択している彼女とは、それまでにも何度か面識があった。彼女は僕が体調不良で学校を休んだり、用事があったりして逢坂さんが一人になっていると、いつも声をかけて一緒にいてくれていた子だった。
「…ごめん、僕にもわからないんだ」
返事を濁して数秒後。赤松さんは、少し僕を訝しんでいたけど、もっと表情を曇らせた。
「そっか…どうしちゃったのかな、逢坂さん。最原くんは逢坂さんの家知らない?」
「…知らない。…赤松さんは逢坂さんと連絡とってみた?」
「うん、だけど全然返ってこなくて…期末も受けないつもりなのかな?テスト範囲とかわかってるのかな」
「どうなんだろ」