第1章 ガラスの向こうの横顔
「オレ、人がつく嘘って大嫌いなんだよね!」
『笑えればいいんでしょ?努力するよ』
「…努力って…逢坂ちゃんも相当変わり者だよねー。つまらなくはないけどさ」
王馬くんは、ガラスの向こうにいる逢坂さんのことを、ずっと見つめていたんだ。
気づいても遅い。
知り合って数ヶ月。
そんな短期間しか彼を知らないはずの最原でさえ、王馬の計算高さを侮ってはいけないことを、肝に命じていたはずだった。
しかし、まさかこんなタイミングで自分が彼女に近付く為の道具として利用されたのかと気がつくと、若干の嫌悪感を感じることを禁じ得ない。
「あ、最原くん、雪、おはよー…ってあれ?王馬くん?」
「二人とも、おはようございます。…あれ、キミは…」
「おはよう赤松ちゃん、天海ちゃん!今日オレも一緒に行っていいかな?」
「うん、いいよ!なんか新鮮だねぇ」
そんな最原の何とも言えない気持ちはつゆ知らず、にっこりと笑って、大して検討もすることなく、明るく返事を返す赤松。
対して天海は、少し考える時間があった後、いつものように笑って、別に構わないっすよ、と答えた。
五人で横並びになって歩くわけにもいかず、暗黙の了解で赤松は最原の隣を歩き、天海は逢坂の隣を歩き始めた。
最原は王馬が前後どちらを選ぶのか伺っていたが、王馬は意外にも、赤松達と並んで歩き始めた。
「赤松ちゃん、今日は髪型ポニーテールじゃないんだねぇ」
「う、うんそうなの。どうかな?」
「………あれ、本当だ。髪おろしてるの珍しいね?赤松さん」
「ちょっと、イメチェンしようかなぁなんて。高校生になったし、大人っぽくしようって思ったの」
「逢坂ちゃんとお揃いだね。もしかして真似したの?」
「えっ!そ、そんなことないよ!」
赤松は王馬の指摘にあわあわとし始め、後ろを歩く逢坂の反応を伺った。
逢坂はどこから取り出したのか、紙パックのお茶を飲んでいる最中で、「真似された」という事に対して特に何の反応も見せなかった。
『可愛いよ。大人っぽくて新鮮だね。最原もそう思うでしょ?』
ふわ、と笑い、逢坂は最原に同意を求めた。
意見を求められた最原も、曖昧な笑みを浮かべて、そう思う、と答えた。