第6章 本当の嘘つき
「オレはまだ嘘つきだって周りもわかってるからいいようなものの、最原ちゃんは、まさか嘘つくわけないって周りから信用されてる分タチ悪いしさ」
『…王馬、寝不足だからかわかんないけどあまり話が楽しくないよ』
「楽しくさせなきゃ喋っちゃいけないわけ?オレだって蔑ろにされればされるほどムカつくし感情的になって早口まくし立てることぐらいあるよ」
『…今日のことは後でちゃんと話すから、わけのわからない脈絡で最原を嘘つき呼ばわりすることはないでしょ?』
「嘘つきに嘘つきって言ってるだけじゃん。逢坂ちゃんは色々鈍いからわからないんだよ、最原ちゃんが本当はどういう奴かさ」
『…もういいって』
「よくないよ!なんで逢坂ちゃんはオレの言うこと信じてくれないのさ!」
『もういい』
彼女はよく通る声でそう言った。全く笑っていない彼女の横顔を見て、躍起になっていたように見えた王馬くんは、すっと感情を顔から消し去った。
「あぁそう、勝手にしなよ」
ガタッと荒々しく音を立てて、彼が教室から出て行く。逢坂さんは窓の外を見たまま、彼の背を視線で追わなかった。
『………ごめん、最原』
「え…どうして逢坂さんが謝るの?悪いのは王馬くんだよ」
『違うよ』
彼女は僕を見て、悲しげに眉をひそめ、冷たい机の上に身体を倒した。
『……違う。私がちゃんと言わなかったから』
「…何を?」
『……キーボとゲームする約束なんてしてない』
今日は王馬が来るかもしれないから、天海とは約束できない。
ちゃんと言えばよかった。
彼女は目を閉じて、自分の顔を僕から隠すように、額を机に押しつけた。