第6章 本当の嘘つき
なぜ自分をデートに誘わないのか。王馬くんはそう言いたいんだろうけど、プライドがあるのか、直接的な言葉は使わない。彼も、逢坂さんへの好意を隠さない。僕からしたら、二人とも勇敢すぎる。
「あのさ…王馬くんも来たら?みんなでゲームする話してたんだ。キミもどう?」
「…最原ちゃんは逢坂ちゃんに誘われたの?」
「え?あぁ、ついさっき、みんなで遊ぼうって話になったんだよ」
「なにそれ。じゃあ本当に逢坂ちゃんはオレと二人で過ごす気ないわけ?」
「う、うん…?」
怪しくなってくる雲行きと、威圧感が増す王馬くんから目をそらし、助けを求めるように逢坂さんを見た。彼女はただメロンパンを小動物のようにゆっくりと食べ進めるだけで、助け舟は出してくれそうもない。
「ふーん…オレのことをよく知ろう強化月間はもうやめにしたの?こんなことなら、わざわざ眠いのに学校なんか来なきゃよかったなぁ」
「むしろ、なんで王馬君は当たり前のように逢坂さんと遊べると思ってたんすか?彼女が人気があることぐらい、分かってるっすよね」
「そうだよね…オレの勘違いだったみたいだ。たかがクリスマスイブに逢坂ちゃんに遊びに誘われたくらいで、図に乗っちゃいけなかったんだよね…」
「「え?」」
(あ、やばい)
僕と天海くんの声が被った。驚くことよりも先に、場が荒れることを察知した緊張が身体を駆け抜ける。押し黙った天海くんが、冷静に努めようとしているのがわかる。腕を組んで、彼は真剣な表情で逢坂さんを見た。
「……嘘、っすよね?」
『…』
逢坂さんは嫌な流れを感じていたのか、さっきから食べているように見えたメロンパンは、ただ口に押し込まれていただけらしく、まったく飲み込めていないことに気づいた。
「……嘘じゃないんすか?」
『王馬、その話を今する必要がある?』
天海くんは逢坂さんの反応を見てため息をつき、「食欲失せたんで教室戻ってるっす」と言い残して席を立った。おそらく意図的に人払いをした王馬くんと目が合って、反射的に目をそらしてしまう。
「最原ちゃん、今日は赤松ちゃんと昼ご飯食べないの?」