第6章 本当の嘘つき
「危なかったぁ……危うくもう少しで三途行きだよ。逢坂ちゃんがa組でご飯なんて珍しいね!毎日来てくれればいいのに」
悪びれもせず、メロンパンを食いちぎった王馬くんが笑った。ごちそうさま!と無邪気に彼は言って、さも当然のように逢坂さんの隣の座席を引きずって、そこに腰掛けた。
「オレ、遅刻してきたんだよねー。a組にオレの姿がないから、ちょっと心配しちゃったりしてたでしょ?」
『いなかったんだ、気づかなかった』
「ちょっと、メロンパンの1/16ぐらい失ったくらいでそんな塩対応はいただけないよ!せっかく逢坂ちゃんのために、放課後空けといてあげたのにさ」
『…今日?』
「うん、オレとデートする約束だよね。まさか忘れたなんて言わないでよ」
『嘘』
「嘘…?もしかして本当に忘れてたの…?オレはその時間を作るためだけに徹夜したっていうのに…?」
『いつも思うんだけど、王馬は学校に来ないで何してるの?本当に犯罪集団のリーダーなの?』
「オレが何してたってどうでもいいよ、問題は逢坂ちゃんがオレとの約束をドタキャンしようとしてるってことでしょ。誤魔化さないでよ!」
『はいはい、演劇部に入ったらどう?大抵の人なら賞賛してもらえるよ、王馬の演技力は』
二人の間で交わされるやりとりに、天海くんと僕は目を合わせた。おそらく、王馬くんのいつもの嘘なのだろう。逢坂さんはまったく取り合おうともしないし、王馬くんは大したリアクションも取らない逢坂さんに対し、つまんない、と不満げに呟いた。
「逢坂ちゃんさ、今や裏社会の人間でさえバレンタインは気を抜けないイベントだってわかってるんだよ?わかってないよね?オレがどれだけ競争率の高い存在かとかさ」
『…競争率?』
「きっとオレが高校生に見えないくらい愛らしくて、エンターテイメントをこよなく愛する嘘つきだからって、どうせほっといても自分の側からいなくなったりしないだろって思ってるでしょ」
『普通に身長が小さくて嘘つきだって言えばいいのに』
「認識が甘すぎるよ!悪の総統ともなれば、毎年お中元お歳暮感覚でチョコレートが運ばれてくるんだから、もっと焦りなよ!」
『それ確実に義理だよね』