第6章 本当の嘘つき
クリスマスを過ぎてから、天海くんは逢坂さんへの好意を隠さなくなった。
「逢坂さん、今日はバレンタインっすけど、誰かと予定あるんすか?」
『えっ、いや…うーんと、早く帰ってキーボとゲームする約束してるんだ』
逢坂さんはそんな天海くんを、以前と比べて少し遠ざけるようになった。
「そうっすか…俺がお邪魔したら邪魔っすかね?」
『邪魔じゃないけど、二人しか出来ないゲームだから暇になっちゃうよ』
「じゃあ、行ったら気を使わせちゃうだけっすね。また今度誘うんで」
『…うん』
そんな二人の会話を聞きながら、僕は少しほっとしてしまう。かっこ悪いと思うけど、どうしようもない。
「…でも逢坂さん、キーボくんを優先することが最近多くなってない?」
『えっ』
「先約は大事だと思うけど…でも、せっかくなんだし、みんなで出来るゲームをしたらどうかな」
僕の提案に、逢坂さんはいつもの癖で、少し頬に手を置いて考えた。
『…じゃあ、うーん………最原も来てくれる?』
「え。……えーっと……」
天海くんの様子を伺うと、彼は指輪の光る手を顔の前に立てて、来てください、と懇願してきた。
「…じゃあ、僕もお邪魔しようかな。赤松さんは誘わないの?」
『むしろ最原は楓になにか誘われてないの?』
「なにかって?」
『「………」』
赤松さんは今、美化委員の委員会に参加している。時刻は昼の12時25分。最原くんが一人になっちゃうから、という理由で赤松さんが機転を利かせてくれて、隣のクラスの逢坂さんと天海くんを誘っておいてくれたらしい。そのおかげで僕は、孤独に一人で昼食を食べることにはならなかった。
『うーん…そしたらさ、申し訳ないんだけど…』
そう言って逢坂さんは、購買で適当に選んで買ってきたメロンパンを口に入れようとした。
「「あ」」
天海くんと僕が声を上げた。彼女のメロンパンに、断りもなく、背後から駆け寄ってきた王馬くんが食らいついたからだ。
「んぐ、んむむむ」
『おはよ、王馬』
逢坂さんは大して驚くことはしなかったけど、不機嫌そうに眉をしかめて、食らいついたままの王馬くんの顔面方向にメロンパンを押し付けている。