第5章 「恋」
「彼は、家族には見えませんよね。親友か、恋人同士のように見えます」
「…うん、そうだね」
「ボクは最近、王馬クンが博士といるところを見ると、落ち着いていられません」
「…え?」
「ボクは博士の家族も同然だと考えています。なので、彼がボクより博士に近い存在だとは思いません。しかし、現在はそうでも、将来他人同士が家族になることはあり得ますよね」
「……」
「本当の家族ができたら、博士はボクを必要としなくなる気がして、焦ってしまいます」
最原は、キーボの発言に目を丸くした。彼は素直な感情を吐露し、本心を隠し続ける最原よりも人間らしく思えた。
「……それは…王馬クンに嫉妬してるの?」
「…さまざまな表現を調べましたが、総合的に見て、その言葉が現在のボクの心理状況には当てはまると思います」
「……その気持ちを逢坂さんには話した?」
「いえ…なんだか相談する気になれなくて。博士にとっては、ロボットの家族を大切にし続けるより、人の家族を作った方が幸せでしょうから」
キーボの逢坂に向ける気持ちはなんなのだろう。
生みの親への情だろうか。
身近な人に対する親近感か。
「……博士と、一番初めに出会った時約束しました。たった一人の家族になってくれと」
「………約束?」
「ボクなんかでいいのかと確認しましたが、博士はキミにしか頼めないことだからと。…ですが…複雑な気持ちです。考えれば考えるほどボクは……」
キーボは自分の機械の右手を見つめて、ぐっと握ってみせた。
「……いえ、なんでもないです。変な話をしてしまってすみません。ボクもリビングに戻ることにします」
「……キーボくん、今何を言いかけたの?」
「ボク自身理解できていない部分が多いので、最原クンに話しても混乱させるだけだと思いますよ」