第5章 「恋」
「逢坂さんが心配してたよ。学会からずっと元気がないって」
「……」
キーボは何かを考えた後、机の上に置いてあったパソコンを開いた。無言で作業を続ける彼を見守っていたが、忘れられていたわけではないらしく、少し時間が経ってからキーボは最原の方を向いた。
「これを見てください」
「……え、これ3ch?」
キーボが見せてきたのは、希望ヶ峰学園の学会についての批評が書いてある掲示板だった。全国的に有名なその掲示板をスクロールしていき、キーボが考え込んでいる原因がわかった。
掲示板には、逢坂とキーボを称賛する声、そして対照的に貶める言葉も書き込まれていた。
「…こんなの、気にすることないよ」
「ボクはどう言われようと構いません。しかし……ボクがうまく答弁できなかったせいで、博士は対物性愛者だという人が出てきています」
対物性愛とは、生命のあるものを愛することができず、物や建物など、生命のないものを愛する性的嗜好のことをいう。その言葉を聞き、最原は怒りを覚えて掲示板を見直した。
「誰がそんなこと…!気にしない方がいいよ、人が成功するのが悔しいんだ、そういうことを言う人は」
「最原クンはどう思いますか?」
「…え?」
キーボは両手を広げて、くるくると最原に背中も見えるように、身体を回転させた。
「ボクと博士が恋人同士ではおかしいですか?」
「えっ、恋人?」
キーボはその最原の反応に応えず、ただ黙って彼の反応を待っている。最原は悩んだ末に、少しだけ嘘を混ぜて、ほとんど本心を話すことにした。
「……2人が恋人同士でも、おかしいかどうかはわからないけど…そう見えたことはなかったよ」
「なぜですか?誰よりも側にいるし、住居も一緒です。お互いがお互いを必要としています」
「…それは、恋人っていうより家族、なんじゃないかな。わからないよ、僕がそう思うだけで、他の人はそう思わないかも」
「では、王馬クンと博士は?」
「……」
「ボクの次に博士の側にいるのは彼です。彼は博士の家族に見えますか?」
「…ううん、彼は…」
最原が口を噤んだ。その彼の反応を見て、キーボはまた言葉を続けた。