第5章 「恋」
キーボから王馬にそらしてしまった視線を、また戻す。キーボはいつもと変わらない表情でじっと逢坂と王馬を見つめている。けれど、逢坂は違和感を感じずにいられない。逢坂を見る彼の視線がいつもとは違う気がしてならない。
「…ボクは食べられないので、自室に戻っていますね」
「落ち込んじゃった?キー坊。しょうがないなー、暇ならオレの持ってきたゲームのミニゲーム、全部出しといてよ」
「…いやですよ、暇じゃありませんから」
「…ふーん?」
王馬も不思議そうにキーボを見つめている。やはり、違和感を感じたのは逢坂だけではないらしい。
「ま、いっか。逢坂ちゃん、オレの袖掴んだまま固まってるよー。どうかしたの?」
『……いや、なんでも…』
なんだ?あの視線は。
もし予想通りだとするなら、信じられないことだ。
そんなはずはない。
人に出来る限り近く、というプログラム上、ありえない話ではないのだろうか。
逢坂が行動に移そうか悩んでいる間、異変を察知した最原が、目配せをしてきた。
「僕が行くよ」
『……え』
最原が席を立ち、キーボの後を追いかけた。足早に立ち去る彼は二階へと上がって行く。
(…追いかけてっていいのかな)
少し抵抗があったが、最原はキーボの後を追いかけて階段を上がった。
「キーボくん?」
「………最原クン、どうしました。迷子ですか」
「いや、迷子じゃないよ…キミが心配で追いかけてきたんだ。キーボくん、どうかしたの?」
「…別に問題ありません」
キーボは逢坂に与えられている自室の扉を開け、そのまま最原を振り切ろうとしたが、良心が邪魔をしたのか振り返ってきた。
「……入りますか?」
「え、いいの?」
超高校級のロボットの部屋に入れるなんて、少しどきどきとした。