第3章 大宴会
声が聞こえたから、私は寸前のところで彼女の口に触れなかった
声の主は大体想像がついていたため、振り返らず彼女から離れその頬を撫でる
「襲うつもりはなかったのですよ。ただあまりに彼女が愛らしいので…。貴方こそ、夜這いではないのですか?」
「あぁ俺は夜這いのつもりで来たのだ。先ほどの姫にはかなり欲情したからな」
彼女の部屋の前で立つその影を見ると、笑顔の奥に心底残念そうな顔をしている三日月殿がいた。
はぁ…とため息をつくと、三日月殿が私の横に座り眠っている彼女を見る
「これは…、襲いたくなる気持ちもわかるな。」
「私は襲うつもりなんてありませんでした。」
「…顔は瓜二つだが、俺は彼女の方が好みだな。あの者よりも愛嬌がある」
「…その話は、ぬしさまにはなさらないように…」
「しないさ。また主を悲しませてしまうからな」
と言いながら、三日月殿は彼女の頭を撫でる
やはり撫でられるのが好きなようで三日月殿の手にも擦り寄る
「…俺達も床に就くか。ここにいたら本当に襲ってしまいそうだ」
「そうですな。…では冴姫、おやすみ」
俺は、彼女の小さな手をとりその手に軽い口づけをした
それを見ていた三日月殿も、フッと笑ったと思ったら彼女の前髪を上げその額にキスを落とした
「…本番は、ちゃんと起きているときにな…姫」
小さくつぶやいた三日月殿がゆっくりと立ち上がったため私もすぐに立ち上がった。その足で冴姫の部屋を後にし、自室に戻ろうとしたとき、三日月殿に呼び止められた
「…小狐丸、俺は姫を誰にも譲るつもりはないからな」
と、殺意をも抱いているような笑みで私に言い捨て部屋に戻って行った。
「…その言葉、そのままお返しいたします」
私も、三日月殿の背中にそう告げて自室へ向かって歩みを進めたのだった