第1章 数学教師×さくらい先生.
櫻井先生に連れられるがまま、私は車の中にいた。
生徒が夜遊びしないように、見つけたら家まで送り届けなきゃいけない、決まりらしい。
煙草の匂いのする、車。
助手席から見る櫻井先生の横顔は、
苦手な私でもちょっとドキっとするくらい綺麗だった。
「それで、なんで泣いてたの」
公園のすぐ傍から走り出して五分、ずっと黙っていた私に、
櫻井先生は抑揚のない声で聞いてきた。
『……別に泣いてません』
「いやだって目赤いよ」
『…興味ないくせに』
興味ないくせに。
生徒になんて興味ないくせに。
仕事だから、そつなくこなしてるだけのくせに。
「なんで怒ってんだよ、男に振られた?」
笑いながらそう言われて、カチンときた。
さっき、ちょっと横顔にドキッとしたことに後悔する。
あのときめきを返して欲しい、デリカシーのない口調と言葉。
先生の横顔を思いっきりにらむと、
先生はますます笑って「ああ、図星?ごめんごめん」って、
いつもの嘘っぽい笑顔を見せる。
「なんで振られちゃったの?」
『別に振られたなんて言ってない!』
「良いから話してみろって。別に俺に話したって、周りにバラしたりしないから」
……こんな奴に、恋愛相談なんてしたくないけど。
誰でもいいから、聞いて欲しいって気持ちも確かにあった。
抱え込んでいたら、家に帰ってから、泣いちゃいそうだった。
どうせ櫻井先生は私に興味ない。
生徒に興味ない。
だったら、話したって、損にならないのかもしれない。
ぐるぐる考えながら、気が付いたら、少しずつ、
私は今日あったことを話し始めていた。