第1章 数学教師×さくらい先生.
「… ?お前何してんだこんな時間に。………お前、泣いてんのか?」
一瞬、もしかして彼が戻ってきてくれたんじゃないか、なんて期待した自分がバカみたいで
恥ずかしくなって、あわてて涙をぬぐった。
『先生、こそ何してるんですか…なんでこんなとこに』
なんでこんなとこに、こんなタイミングで…。
学校の外で見る先生の姿、新鮮だけど、今日はちょっともう見飽きた。
私じゃなくて、もっと先生を好きな別の子に、
こういう偶然が訪れたらいいのに。
櫻井先生が苦手な私にとっては、ただのアンラッキーだ。
「俺は夜の見回りだよ。当番だから。お前制服でうろちょろするとか良い根性してるな」
はっとして、コートの前を閉めた。
…相変わらず、生徒に興味ないんだな。
私だってわかって声掛けたんじゃなくて、自分の学校の制服だったから、
声かけなきゃならなかっただけ。
…ほんと、最低の先生だよ。
『…予備校の帰りです。別に遊んでた訳じゃないですから』
私の言葉を聞いて、櫻井先生は手に持っていた名簿らしきものをぱたん、と閉じた。
もう帰ろう、もうやだ。
ほんと、今日はいいことない。
携帯没収されて、彼氏に振られて、泣き顔見られて。
顔を見ないようにお辞儀をして、先生に背を向けて、私は駅の方へ向か、おうとした。
『……、なんですか』
でも、できなかった。
手首をがしっと掴まれて、私は立ち止まる。
「家まで送る。そういう決まりだから」