第3章 保健医×にのみや先生
「なにこれ」
「あ、それね、生徒の忘れ物」
「忘れ物って…こんなの普通忘れないでしょ。服でも脱がない限り」
半笑いでそう口にしたにのは、はっとしたように俺を見る。
俺は、曖昧な笑顔を返して、そうかな?なんて言っておくと、
「相葉さん…まさか」
「え?まさか?」
にのはまだ半笑いのまま目配せをすると、手に持っていたスカーフを翻す。
タグに書かれた手書きの名前。
「 …」
目にした途端、にのは呟いて、
俺の方を伺った。
半笑いだった顔は、少し真剣になって。
「相葉さん、手出したの?」
ちょっとこの雰囲気に気圧されそうだけど、負けじと、曖昧な笑顔を続ける俺。
「いやいやいや…別に出してないよ?そういうんじゃないけどさ、でもちょっと と気まずいんだよね、だからにの、それ返しといてっ」
それだけ言い切って、俺はその場を立ち去る。
これ以上居ると、ばれちゃいそうだからさ。にの、鋭いから。
ちらっと振り返ったら、にのはスカーフをポケットに突っこんで、まだ煙草を吸っていた。
この後は、にのと 次第だよ、
俺はやることはやったかんね!
と、一人視線を送って頷いてみせると、
にのは迷うように、煙草の煙をふうっと宙に吐き出した。