第1章 数学教師×さくらい先生.
放課後、例のごとく、私はお説教を食らっていた。
「…お前さあ、二日連続で携帯鳴らして。反省してないなら、お前の担任に引き継いでもいいんだよ。まあそうなると、一週間は返って来ねえだろうけど、携帯」
はー、とため息をつく先生。
すみません、と頭を下げてみるものの、
正直先生の説教も、全く耳に入ってこない。
だって数学準備室で二人きり、
昨日まではなんてことのない、寧ろアンラッキーでしかないけど、
今の私にとっては、これ以上なくドキドキしてしょうがない、そんな状況だ。
私、苦手だった櫻井先生のこと、
好きになっちゃったのかな。
…まさか。そんな訳ない。
いつも表面的で、生徒に興味なんてなくて、その癖思わせぶりで…
ただずるいだけ。教師としては、最低だよ。
あんな風に、変に意識するようなことされたから、
ムカついてるだけ、ただそれだけ。絶対そう。
「あのさお前聞いてんの?」
『…え、ああ、はい』
「…お前さあ」
頭をくしゃくしゃと掻いて、櫻井先生は困った顔をする。
だめだ、これ以上近くで櫻井先生見てたら、なんか無理、勘違いしそう。
きっちり謝って、早く帰ろう。そう思い直して、背を正した瞬間、急に櫻井先生が、ぷっ、と笑った。
『…なんですか?』
「いや、まさかとは思うけどさ」
『え?』
「お前、もしかして俺に会いたくてわざと携帯鳴らした?」
『はあっ!?』
ありえない!
そんな訳ないじゃん、ていうか、どんだけ自意識過剰なの!
しかも、笑いながら…本当に信じらんない!
『違います!』
ていうか、常識がないよ!からかってんの?
「いや冗談だって、そんなむきになんなくても」
『教師が生徒に言っていい言葉じゃないでしょ!』
ムカついて、思わず立ち上がってぎっと睨みつける。
櫻井先生は、まだ笑いながら、落ち着けって、と私をなだめてくる。