第1章 数学教師×さくらい先生.
「まあいいんじゃない、別に。
高校生なら、そういうオプションに惹かれたって悪いことじゃない。
始まりなんてなんでもいいんじゃねえの」
…励まして、くれているんだろうか?
「大切なのは、その先じゃん」
何て言葉を返していいのかわからなくて、黙ったまま考えていると、
赤信号で、車が止まった。
「寒くない?暖房強くしようか」
黙ってしまった私に、気を遣ったのかもしれない。
『…あ、大丈夫です、自分で…』
暖房に右手を伸ばすと、同時に手を伸ばしていた櫻井先生の左手に触れてしまった。
『あっ、すみません…』
引っ込めようとした右手を、急にぎゅっと掴まれる。
えっ、
なに…!
びっくりした、のと同時に、どきっとする。
すぐに手を離した先生の顔を驚きながら見つめていると、
予想外にも凄く爽やかな笑顔を返された。
「お前めちゃくちゃ手冷たいじゃん、やっぱ寒かったの?そこ、ブランケット入ってるから掛けなよ」
なんだよ…、無駄にどきっとしちゃったじゃん…、
と思いつつも、先生が言ったそこ、の場所がわからない。
きょろきょろしていると、先生の手が伸びてきて、
助手席の目の前のダッシュボードを開けられる。
『あ、ありがとうございます…』
凄く、ありがたいんだけど…
その体制、ちょっとかなり…
顔が近い…
はい、とブランケットを手渡したとき、目が合った。
思わず視線をそらすと、櫻井先生はくすっと笑って、顔を覗き込んできた。
「…なに警戒してんだよ。あ、このままキスして欲しかった?」
はああああああ!?
何言ってんのこのひと…!
突っ込む言葉もでてこなくて、顔が熱くなるのが自分でもわかる。
からかうように笑いながら、先生はまた普通に運転に戻る。
「顔赤えよ」
『赤くないし!』
「いや赤いって」