第29章 大切な心
誰かにとって、誰かの命は大切だ――
それは、お母さんから何度も聞かされた言葉。
人の命は繋がっている、そう何度も訴えかけられた。
自分にとって大事でなくても、他の人にとっては大事なもの。
たとえ大事に想う者がいなかったとしても、自分の先祖は愛し合って自分を産んでくれた。
沢山の命の果てに、今ここに命がある。
だから…自分も周りも、大事にしなければいけないのだと言った。
でも何に重きを置くかで価値観が違うから、怒ったりもする。
それは正常な反応で、理解してもらわなければそれを控えて等はくれないとも教わった。
「言わないで全て察せる人なんて、この世には一人としていないよ?」とも。
「お父さんもそう思うの?」と聞いた所
「お母さんは苦労人だからね?色々と思う所があるんだと思うよ」と笑って返された。
お父さんとお母さんは、深く通じ合っているように感じた。
まだ幼いから、経験がそんなにないから…よくはわからない。
でも…ロキ・ファミリアの皆も、お父さんとお母さんも、ディも…大切で仕方ないものだって言うのだけはわかるんだ。
だって……失った時のことなんて…考えたくも、なかったから。
アル「うわああああああっ!!!;」
お母さんが死んでから3日後…葬式が執り行われた。
墓が作られて、その中に2日後に入れるらしい。
どこにも…いない。
嘘だ…こんなの、嘘だ――
雨の降る中、止めどない涙と共に天を仰いだ。
魔法大国アルテナからの刺客が来ていた。
そしてそいつが…お母さんを殺した。
蘇生魔法も何も効かなかった。
何も効かず、魔法も魔力も受け付けず、心の臓が蘇ることも肺が動くことも一切なかった。
殺された人達と同じ。
為す術もなく、死んでいった。
それを拡げない為に、殺しをさせない為に、お母さんは彼と戦った。
そして勝った。それも相討ちで。
その死の魔法は詠唱途中であっても発動する。
お母さんは死んだ。
心臓が止まり、肺が止まり、脳の機能も止まって…死んだんだ。
死んだんだ…
墓の前に立つ中、激しい雨に打たれながら止まらない滂沱の涙を零す。
ディはお父さんの胸に縋りついて泣き叫んでいた。
僕は一人…拳を握り締めながら、咽び泣いていた。
胸が張り裂けて、話したくても居なくて…辛かった――