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Unlimited【ダンまち】

第82章 光芒(こうぼう)





野山「ふふっ」

僅かに涙を浮かべていたことに気付かれないように、夕暮れの光が染めた頬を誤魔化してくれていた
互いに――

共に、逢瀬を過ごした…何度も、何度も…‥共に

互いがそうなのだと、お互い…気付かないまま――


他愛のない話から、なんでもない昔話、世間話まで一緒になって…笑い合っていた
この方との時間は心地よく、あっという間に過ぎて行った……


その時になって知った
父上、母上と不幸が続き、金が不足していたのだということ

本当に助けられたのだということを

何度も、何度も…感謝を伝えてくれた


ただただ…ずっと閉じ込められ、鬱屈とした心が、解きほぐされていくように感じた……――


いつの間にか…あの方が来るのを、心待ちにしている自分が居た


会いたい――

必ず来てくれる、あの人に…

月夜の中で、閉じ込められた部屋の中で…いつしか、祈りを捧げていた


宝物のように、大事に、閉じ込められる日々に…いつしか、終わりが来ることを……


あの人に、正面から会いたい
会って、伝えたい……

好きだと――この胸の内に、息衝く『想い』を


でも…決して許されないだろう
決して許されない想いだとしても――

それでも――ただ―――


―――会いたい

いつの間にか、焦がれるようになっていた
満月の日の晴天の夜…私は、密かに、呟いていた

あの殿方の名前を知りたい、とも


互いの名も知らぬ身…それが終わりを告げるのは、すぐそこだった

昔話をしている内に、紹介してくれた


正能「私の名は高杉正能(たかすぎまさむね)、幼名は竹若丸だ

よろしく頼む」頭を下げる

野山「何故幼名まで?」こてん←首傾げ
正能「!いや、それはっ

竹若丸は…若々しい竹のように成長してくれるようにと、元服まで生きれるようにといったお守りなんだ
正能も…父上が頭を捻りながら、必死に考えてくれた名だ

どちらの名も、私にとっては大事なものだ」

野山「そうですか」
正能「ああ…

竹若丸も、正能も、どちらの名も、私は誇りに思う

だから…伝えたかったんだ」


普通はあしらう
この時代では特に…その傾向が強い

女のくせに、と男ならば誰もが下に見る

誰であっても…必ず


だが…真面目に、誠実に、真っ直ぐにこちらを見て、必ず答えてくれる

そんな正能様に、微笑んだ


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