第82章 光芒(こうぼう)
「馬の意思を尊重するだなんて…そんな方、初めて)
あの…
殺せば止まるのでは?」
正能「何を言う!
勿体ないだろう!!
何より…可哀想ではないか……
そんなことをしては、忍びない」
俯き気味に、そう言い放った
「くす)…
変わったお方^^ふふっ」
正能「そうか?」きょとん
「ええ
私の家では…基本、使い捨てですので」
正能「…そうか」
「あの」
正能「なんだ?」
「……よければ、お教え致しましょうか?」
正能「え?」
「馬術です
幸い、こちらには馬を操る術が書かれた本がありますので」
正能「真(まこと)か!?
だがいいのか?一族の秘伝のものだってあるだろうに」
「いえ…構いません
お困りでしょう?」微笑
正能「!!
…恩に着る」微笑
心苦しそうに、くしゃりと笑みをたたえた顔で頭を軽く下げてくれた
それから数刻の後に、格子越しにあれこれと教え、
「馬は賢うございます
家までの道のりは覚えていましょう」
正能「そうか…助かる」微笑
そう、馬を優しく撫でた
「……ふふっ
本当に…大事にしておいでなのですね?」
正能「ああ…褒美で下賜してもらったとは言え、初めての馬だしな」
「初めて…なのですか?」驚愕
正能「ああ
家にも馬術の本を探したのだが…無かった
それで…手探りで…
人に聞く手もあったのだが…
何分、金が」
後ろ頭を掻いて、ごにょごにょと口ごもる
それに、事情を察した
馬術を教わるのにも金が要る
訓練の手合わせは金はかからないとしても、教わるとなれば話は別
教わる際には、お金は必ずと言っていいほど付き纏う
生き抜く術なのだから当然だ、といった風習だ
正能「馬を御する術を教えてくれたこと、心より感謝する
ありがとう」
「いえ…」
正能「この礼は、必ず」
そう言って、去っていった
教えている最中も…常に馬のことを気に掛け、
喉が渇いたようだ、と手ずから袋の内にある水を分け与えていた
それに居ても立っても居られず…
「その薮の向こうに池がございます
水も澄んでいるので、馬にとっても飲み水になるかと思われます
如何でしょうか?」
正能「!
…いいのか?
そんなにしてもらう訳には」
「構いません
いずれにせよこのままでは動けぬでしょう?」
正能「……
感謝する」深々お辞儀