第70章 新天地
気付けば…我を忘れていた…
気付けば彼女のもとへ走っていて…敬語までもが、抜けていた……
ただ――この想いを伝えたかった
私は、ずっと…仮面を被ってきた。
いえ、被らされてきた。王族の務めとして…
…本当の私を知っている人さえいればいいと…でも心のどこかで、私を第一に考えてくれる人を探していた…
やっと見つけたその人は、女の人で…彼女は…もう別の誰かに夢中になっていた……
何とか友人として寄り添おうとした。
良き隣人として接しようともした。
でも…無理だった。
彼女のこととなると、簡単に声が荒立ってしまう。
こんなに…容易く、仮面が外れてしまう。
自分のことのように想い、声が張り裂けそうなぐらいの慟哭を、叫び声を今にも上げたいだろうに…
笑って、大丈夫だと言うかのように微笑み、人のことばかり気遣ってくれる。
でも…そんなのは、大事な人だと思っていない人から見れば「ただの「餌」」に過ぎない。
私も、よく知っていた。
何で、こんな人ばかりが泣くのだろう…
何で…心無い人ばかりが笑うのだろう……
愛でてくれる手もなく、理解する人もおらず、聞く者もおらず…たった一人で耐え続けてきた。
人のそれを汚す訳にはいかないと…
同じ痛みを与える訳にはいかないと…
何で…なんでっ!
何で人に求めない人ばかりが!!
(人の)痛みに痛む人ばかりが!
痛まない人に!求める人に!殺されなければならないの!!虐げられ続けなければならないのよ!!!
人を自分の好きに動かしたいだけでしょう!?
聞いてくれるから、動いてくれるから、痛んでくれるから、死ぬまで痛まず利用したいだけでしょう!?
何でそんな人ばかりが笑って長生きして!彼女みたいな人ばかりが延々に泣いて、苦しんで、甘やかすなよと笑われて、安らぐことも笑うこともなく死ななければならないの!!?
許さない…一生許さない!!!
それでも人は…目ざとく見つける。
十二分に気を付け、自分を追い詰めている人へ、抵抗する気力も、体力も、何も残されてない相手へ…人は笑う。
「甘やかすなよ」と嘲笑う。
事情が知る人からそのことを責められれば、「冗談」だと笑う。
その傷も、痛みも、苦しんできた時間までも…何もかもが報われないまま…
だからこそフィンは怒り泣いていた…