第69章 文明開化
そうでなければ…私は、なんなんだ?
その言葉が、懊悩が、しっかりと耳に届いた。
泣き崩れ、肩を震わせ、涙を零す。
ボロボロと涙を零し、僕に縋らずに一人で泣き震え、咽び泣く。
ずっと、こうしてきたのだろう…
誰にも理解されず、縋れず、頼れるものもおらず…
感情を思いのままにぶつける相手にも、見てくれる相手にも恵まれず…
たったひとりで――幾千の、数多もの想いを自身の内に封じ込めてきた
亡き者、いないものとして扱われ続けたが故の、
その在り方を優しいと、いい人とされ続けてきたが故の、心痛…
自らの存在そのものが否定され続ける、誰からも、一人として欠かさず。
その道に共感者も理解者もおらず、孤独しかなかった。
何故、人へ寄り添うか…
何故、人を、命を、立場に関係なく重んじようとするか…
その真髄を…垣間見た気がした……
大事にされなかった当時の己と思って、接しているんだとばかり思っていた。
人を亡き者(無き者)とする意思。
好き嫌いで全てが罷り通るのなら、悪すらも善となる。
偽りの善という名の虐待を常日頃、幼い頃から意思も感情も抱くことさえ許されない道具と強いられ続けてきたが故の、懊悩。
だからこそ…同じ痛みや苦しみを与えない為に、その心を慈しんで、慮ってしているのだと認識を改めた。
重んじているからと、何をやってもいい訳ではない…
はき違えてはいけない。
だがそこへの理解さえ得られない。好き放題にされる。
親切心さえそうとは受け取られず、悪と捉えられる。
だからこそ…思ったのだろう……
同じ想いをさせてはいけないと、人で在りたいのならしなければ、と――
されたからと…同じ想いをする人を、増やしてはいけないのだと――
霊感を赤子から持ち続けていられる理由は…
『人の、今後の「生き死に」』に関わるほどの傷、感情の奔流、心、本質を見極め、重んじられること。
如何なる立場であろうと、偏見も差別もなく、唯一の個と、命と、大事に出来ること。
そこに尽きるのだと思った。
ケイト「私は…私を、いい人とは思えない…
あんな痛みや苦しみを与えることに怯えているだけだっ」
首を垂れ涙を零すケイトに、頭を撫でながら言い返した。
フィン「それは…人の痛みを己が事のように感じられる『優しさ』だ」