第69章 文明開化
生命を軽んずる行為をよく思ってはいないくせ、自分がするのはいくらでもいい。
そういう甘えは誰にでもあるにしても…信頼関係を構築する上では致命的。
殺しにおいては忌避して当然のこと、なのにそれをしないから。
だが…僕でも同様に力で解決している部分はある。
決まりを破ったものへ制裁を加えている件について尋ねてみると…
仕方ない。破ってない相手には一貫してしてないんだから大丈夫。
そもそも群れないのも蕁麻疹になるんだから。遠ざけることは自身の命にだって係わるんだから必要なこと。
そもそもが遠ざけるよう仕向けた上で、追い打ちをかけにいったりも、殺したりもしないから大丈夫。
とまで言われた…
僕に対して甘い気がするが…まあ、越えてはならない一線を守っている件を評価してくれているのだろう。
それもまた話している時に伝わってきた。
時間、話を戻そう。
エレナを喪った事実を認識後、ケイトはすっかり落ち込み、うつ状態に陥っていたが…
辛抱強く付き合い、何とか乗り越えていってくれた…
滅亡の道へ続くことを、地獄に落ちることを、薄々感づいていたこと…
手のかかる弟を大事に想い、あれこれ尽くした、それでも止められなかったこと…
そのことで姉失格だと自身を追い詰め、自信を失い、それでも残された人達の為にも何とかしなければと自身を追い立て続けていた。
だから今はもういない、死んだ初代のことを気に掛けている余裕等なかった。
死んだ人があまりにも多過ぎたから…それを無駄にさせない為にも、終わらせない為にも、必死だったのがわかった。
それよりも一番大きいのは、将来を語らい合っていたエレナが死んだ喪失感だった。
エレナの死因は明らかな巻き添え、それも弟が手を掛けたも同然。
しかも弟は笑っていた。笑いかけて日本へ行こうと誘った。箸にも棒にも掛からぬ、その無神経さにすっかり嫌気が刺した。
お前が死ねばよかったのに、と感情のままに泣き叫びたくなるほど…
当時、ケイトは初代が間接的に殺されること、死ぬことは予期していた。
見えていた。何をしようと防げないことも加えて…
全てが絶望に見え、哀しみに明け暮れ、彼のことを考えないようにしていたというのが正しい。
ケイトが完全に立ち直るまで…4か月もかかった。
出産した第一子、長女に救われ、エレナと名付けた。