第65章 新たな冒険
張り出されたそれを見た後、教室へ戻る前に校長先生と出会ったトールは…抱いていた疑問をぶつけた。
トール「あの…校長先生。
自主性を重んじつつ、自分で出来る範囲だけでも周りに迷惑がかからないように、自ら努めるように。
という意図は何となくわかるんですけれど…
謝れない人がいた場合、どうすればいいんでしょうか?」
校長「温かく、見守ってやりなさい」
トール「え?でも…」
校長「うむ…礼儀はきちんとすべきだ。
しかし、それを認めるのに時間がかかる人もいる。
非を認めぬ者だったり、言動で償うという方針と習慣だったり…人によって千差万別。
だが、一番深刻なのは…フラッシュバックから、著しく強まる恐怖心から、声も出せなくなる人じゃ。
環境により、皆が出来ることが出来ない人もいる。
手がない人、足がない人、不自由な人、そういう目に映るものなら、まだいい。
言わずともわかる。
だが…先程の例のような、目に見えない理由もある。
心の傷は…目では見えん。
社会や授業では、そんな人の存在を教えてはくれない。
ただ一人の人に合わせるのではなく、大衆のみに合わせる。
大衆に合わない一人は置き去りにされ…社会にも人にも受け入れられず、散々な目に遭い続けた。
領主様はね、その環境にあった。
認められず、その非をいつもいつも…十何年経った今も、言われ続けている」
トール「どれだけ器が狭いんですか?」
校長「正義だと思い込んでいるのだろうね。
小さかった頃の失態をいつまでもいつまでも…」
トール「あ、だから」
校長「そう。
言及するべからずという文がある。
出来ないことを、その理由を、過去を、話したいかい?聞かれたいかい?」
トール「………僕は…嫌です」
校長「うむ。
成長の速度は皆違う。学ぶものもまた違う。
同じものを経験したとしてもね…受け取り方も見え方も皆違うものだ。
皆違い、違った速度で成長し、違った一面を有している。
畑違いという奴じゃな。
それで合わないということで、距離を置かれたり、いじめられたり、蔑ろにされ続けてきた。
だからこそ…そんな存在を出す訳にはいかない。
出したくない。
だから領主様は、制度…校訓を作った。
皆を守り、きちんと学び、成長できるように。
言及はしないが、助言は別…
わかるかな?」