第57章 追憶
毎日、毎日…ダンジョンを潜るお父さんを見送っていた。
私が興味本位でこっそりついていって危なくなった時、助けてくれた。
何度でも何度でも…傍に居させてくれた。
修業する姿もずっと見ていた。
私はダンジョンの前で、お母さんと一緒にいた。
物語を読んでもらったり、未来に夢を馳せたり…
あの頃は、目に映るもの全てが希望に見えて仕方なかった。
父とダンジョンを潜る仲間には色んな種族がいて、色んな人達が私に優しく接してくれて…とても穏やかで、幸せだった。
そんな平穏な日々がずっと続くと思っていた。
けれど、7歳になってから程なくして…異変は起きた。
ダンジョン内で起こった異変…
それを感じたダンジョンが暴走して、今までにない災厄が産み出された――
今で言う隻竜が誕生して、お父さんが隻眼にした所までしか…そこまでしか、私には見えなかった。
そして……
私は、全てを失った。
私だけが違う時代へ送られた。
どれだけ願っても――
お父さんには会えない。お母さんにも会えない。
帰ることも、あの温もりを味わうことすらもできない――
果てることのない絶望を味わった。
――英雄はいない
――私の前に、『英雄』は現れてはくれなかった
現われたことさえも――今まで一度として無かった
『誰か――――』
幼い頃、飲み込んだ言葉は…今もなお、胸の奥深くに刺さっている。
『私を――助けて』
刺さり続けて、じりじりと音を立てて私の心を黒い炎へと焦がし続けていく。
その言葉は誰の耳にも触れず――今もなお叶えられることは無く…
静かに、胸の中に波のように覆い寄せる、今もなお絶望と共に黒い炎を掻き立て続ける。
誰も助けてくれなかった。
本当に辛い時、それを助けようと駆け付けてくれる英雄なんて…居なかった。
その現実に感じたのは――深い絶望、哀しみ、憤り…
父を、母を、皆を…それまでの日常を、全てを奪った竜種の怪物(モンスター)、特に隻竜への憎しみ……
どれほど泣いてもなお決して変わらない現実に…
望んだ理想も、夢も…決して叶うことのないそれに、私は剣を取ることを選んだ。
立ち上がる以外、私に残された選択肢はなかった。
同じ人は出したくない。
でも、それ以上に渇望しているのは――