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Unlimited【ダンまち】

第52章 メシア・デイ・イヴ





男「待っていて――くれるか?」

女「はい」

鎧を着た男が音を立て、浴衣を着た女性へ歩み寄る。

いつものように右手を左肩へ添える。
思わず抱き締めそうになる中、踏みとどまる。


戦場(いくさば)へと駆り出される前のことだった。

(男はケイトの前世の姿、女はフィンの前世の姿)



男「……必ず…」

女「?」

見上げる中、続いた言葉に…私は泣きそうになった。


男「…必ず…帰ってくる」

女「!
…はいっ」

真剣な表情で双眸を見つめながら言う中、涙を浮かべた目が目に入った。

震えた声で、辛うじて絞り出す最中…涙が自然と浮かんだ。



男「…いってくる」

女「帰りを…」

男「?」

女「お待ち申しております」

男「ああ。ではな」

そう微笑みかけて頷きながら、あの人は戦場へと去っていった。



それに不安が拭わせ、お腹を撫でた。


女「この子も――また…」

そう呟いた声は…風によってかき消された。





しかし…死地にて、彼は選択する。

味方の軍勢へ敵は駆け、撤退しようとする最中でもなお迫る。



男「このままではっ!

また…誰かが、哀しみにくれることになる…)


男(幼少時)「父上えええええ!!」号泣

(ぎりっ!!)
そんなことは…させない!!)

こちらだ!来い!!!」

今にも歯牙をかけられそうになる軍勢。

近付こうとするそれへ刀を投げ付け、殿(しんがり)となった。


引き付けながら軍勢とは違う方向へ走っていった。



大人になった姿を、父上に見てもらいたかった。

誇れる自分で在りたかった。
見過ごすことなど――できなかった。



ひたすらに走り回っていると小屋が見えた。

その中へと入るや否や…気付けば武器を探していた。





帰りたかった。





帰ろうとした。





しかし…


ひゅっ!←振り返った直後、矢を入られる

ぐさっ!←左脇腹へ突き刺さる
ずばっ!!←刺さった箇所から切り裂かれる

許されなかった……


男「済ま…ない…」

仰向けに倒れ伏す中…辛うじて口をついて出た言葉…

それは果たして…お前へと通じているのだろうか――?



小屋の天井が目に入る。


その視界から輪郭が薄れ…白んでゆく。

そのまま意識は急速に…抗うこともできず、空気へと溶け込んでいった。


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