第97章 いとけないカレとこすっからいワタシ
トントン、と軽いノックの音がした。
叩き方で分かるから、返答はせずにドアを開ける。
思った通り、愛しのカレが立っていた。
部屋に通してから、無言のまま視線で話を促す。
「……かずにぃ。ラブレターもらったけど、どうしたら良い?」
「はぁ……は?」
「いや、だからさぁ、女の子からもらっちゃったの」
嬉しくも何ともなさそうな顔で、弟は宣った。
剣呑に言い返しただろう俺を見ても、変わらずのんびりした調子だ。
お兄ちゃん、として考えるなら。
我が弟なのだから女子にモテて当然、くらいには思う。
いや、思ってる。
だって、このワタシの可愛い弟ですもん。
けれども、何だか腹立たしさの欠片が喉に引っかかっている。
良かったじゃん、の一言すら出て来やしない。
俺のサトシなのにってね。
「にぃちゃん?何か、俺、まずいこと言った?」
「……いえ、あんたは可笑しくないよ」
「そ、ならいっか。よく分かんないし、相手のコには悪いけど困ってんだ」
本当はストレートに面倒だと言いたいだろうに。
相手を慮るだなんて、流石は俺の弟だ。可愛い。
にやけそうなのを抑えて、ちゃんと対処を考えることにする。
クラスで立ち回るのが下手という方ではないだろうけど。
本人がそこまで力を注ぐつもりが無いからなぁ。
ワタシに似ちゃったかしら。
「サトシは、どうしたいの?断りたい?」
「んー…正直、そうなるかな」
「じゃ、決まり。断るときに、ずっと好きなひとがいるって言えば何とかなるよ」
「ずっと好きなひと……そう言えば、どうにかなんの」
「なるよ。出来れば、少し辛そうな感じでね。で、それを信じさせる」
つらそうなかんじ、と弟が呟く。
分かってなさそうにも取れるけど、コイツのことだから上手くやるだろう。
何せ器用さでは、兄であるワタシと競るくらいだし。