第90章 頬を抓れば、すぐに分かる 肆
side.M
『潤の言う通り、お前のこと好きだよ』
胸を締め付ける声音が、泣きそうな顔が、脳裡を過った。
最初に告白してきたときも、そうだった。
泣くんじゃないかって思って、不安になったんだ。
それで泣かせたくないと考えた筈なのに、思いきり振回して。
オレが臆病なばかりに、もしかすると、智さんを泣かせてるかもしれない。
なんて、悪夢のような話だ。
いや、実際のハナシかもしれないんだけど。
ちゃんとケジメをつけようって心に決めた癖に。
拒絶されたら、と思うと正攻法なんて怖くて出来ない。
狡いヤツだけど、こんなオレだけど。
まだ好きでいてくれてるなら。その可能性に、賭けよう。
『今週土曜の9時頃、駅で会えない?』
断れないシチュエーションを作ろうとするのを、どうか許してくれないかな。
祈るような気持ちで、自分本位の文章を送った。