第90章 頬を抓れば、すぐに分かる 肆
side.O
そうして来ちまった、土曜日。
出来るだけ”可愛い服”を選んだ自分を誰か褒めてほしい。
そう、出来たら潤に褒められたい。なんて、ね。
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ふわふわ、ひらひら、もこもこ。
体つきを隠す為だから、そういうものだって分かってる。
重いウィッグも、べったべたのグロスも、仕方ない。
でも、さぁ。
どうして、よりによって正反対の女と楽しげに喋ってんの。
すらりとした脚に黒のショートカット。
何だよ、じゃあ俺なんか要らねぇじゃん。
ニーハイブーツが、余計に重くなっていく。かえりてぇ。
「あ!こっち、こっち。来なよ」
帰ろうかなぁ、と思ったのにタイミングが悪い。
いや、よくないのは俺だけど。
アイツは俺を見つけるや否や、思いきり手を振ってくる。
諦めてそれっぽく見えるように、小さく振り返すことにした。
だって、しょうがない。惚れた弱みだ。
結局のとこ今だって、俺を見つけて笑った顔にクラっとした。
しょうもないな。
あんまり喋ると女装ってバレるから、返事はせずに小走りで行く。
近付けば、極自然に腰に腕を回された。
さっきの女性はいつの間にか遠くなってる。
一瞬、邪魔しちゃったんじゃないかと不安が過った。
でも聞くに聞けないから、俯き加減のままエスコートされる。
「でさ、旬……このひと、オレの恋人。可愛いだろ」
唐突に聞こえた言葉に、思わず地声で叫びそうになった。
慌てて両手で口を押えて、そっと周りの顔色を窺う。
旬、と呼ばれた男と目が合って、急いで視線を逸らす。
ここでバレたら、潤の評判に傷が付く。
今更、呼び出しに応えたことが悔やまれた。
というか、何で呼んだんだろう?
浮かれてやって来た俺も大概だけどさ。