第90章 頬を抓れば、すぐに分かる 肆
side.O
逃げるように帰って、気付けば一週間も経っていた。
あの2日後には、潤から日曜に出かけるのをキャンセルされちゃったし。
二週に一度くらいのペースで土日に遊ぶの、恒例だったのになぁ。
『だって!智さん、オレのこと好きなんでしょ!?』
ふと、あの切羽詰まったような声が蘇る。
自分の狙い通りに、キスマークに気付いてくれたのに。
顔色を変える潤を見て、嬉しかった癖に。
どうして、あのとき、上手くあしらえなかったんだろう。
まるでニノに嫉妬したかのようで、舞い上がって。
だというのに、俺は、きっと斜に構えた反応をした。
喜ぶかな、とわざわざサトコで迎えに行ったんだけど。
流石に世話になりすぎた、とニノに相談はしてない。
潤と一緒に帰ることもあるけど、それだけ。
前と変わらないようにしようとして、でも何かが変わってるように感じる。
優しいから愛想は尽かさないだろうけど。
それでも全く俺を遠ざけない、とか。出来たヤツだなぁ。
何を考えてんのか分かんねぇな、と。
一人で考えようとして、途方に暮れていたときだった。
『今週土曜の9時頃、駅で会えない?』
用件だけの文章に、俄かに心臓がうるさくなり出した。
せめて、いいゆめで終われば良いな。
視界の端、スカートが揺れた。