第82章 『下着と使用済みの0.02㎜』
狸寝入りをする俺の隣で、アナタは小声で電話をかける。
無駄な気遣い、どうもありがとうございます。
通りが良い声も考え物ね。
内緒話にはあまり向かないのかもしれない。
「うん、呑みすぎちゃって。あ、うん。もう帰るから」
「……あぁ。ははっ………愛してる、ん、じゃあね」
ベルトを直す音、ベッドが軋んで溜息のような微笑。
はいはい、どうぞ、さようなら。
翔さんの気配が遠のくを感じながら、内心で悪態を吐く。
きっと、アナタの好物を温め直せるようにして。
お風呂も追い炊きにして、ふかふかのタオルを用意して。
帰ってきたら洗濯機を回すかなぁ、とか考えて待ってるんだろうね。
何て、出来た恋人。いや、伴侶かしら。
寝室のドアが閉まり、少しして翔さんが部屋を出たのが分かった。
俺は布団から這い出て、大きく伸びをする。
疲れた、けど、これでお仕舞。
浮気でしかないこの関係は、今夜で全て終わりだ。
泥棒猫にもなれなかった俺は、そこそこ腹は黒いし、自棄でもある。
でも、こんなコトにはしたくなかったんだけどなぁ。
あのひとを傷付けるのは、本意ではない。
だって、あのひとも大事なんだ。本当に、大切なのに。
わざとらしく嘆息して、自分のバッグから新品のパンツを取り出す。
「……ごめんなさい、相葉さん」
呟いたのは、あまりに薄っぺらい後悔の念だった。
付き合いたかったんです、翔さんと。
抱合って、キスして、体を重ねて。報われた、と錯覚していたかった。
心が無くたって良いと思えていた筈なのに。
今このとき最も要らないのは。
恐らくこの嗚咽、腐り落ちたこの恋心なんでしょう。
俺の涙も、何もかも、皆みんな消え失せてしまえ。
願わくは、俺が道化のハッピーエンドを。
断罪され惨めになる、そんなワタシのデッドエンドを。