第82章 『下着と使用済みの0.02㎜』
side.N
今日もまたシャンプーは使われなかった。
ウチの匂いを消して、恋人の元へと帰るんだ。
ただいま、おかえり。それで日常へと還るんでしょう。
正しさが好きなアナタだもの、仕方ない。
だなんて誰が言うものか。
鞄にワタシの充電器を入れて。時にはイヤホンを。
偶にふざけてベタベタして、至近距離で笑いかけて。
柄じゃない、クセのある香水をつけて。
どうにかして持って帰らせようとしてる。
アナタに、ワタシの欠片だけでも。破片だけでも。
それでも、あんたは気付かないのね。
次は注意するって謝るんだ。そうじゃないのに。
あのひとが心配しているのは、ソコじゃないのに。
ホントのことも知らずに愛し愛され、飽き足らず、刺激を求めて俺と寝る。
なんて、何ておめでたいんでしょう。
頭がよくて良かった。ヒトの気持ちに鈍くて、よかった。
まぁ、何一つとして良かったことは無いんだろうけど。