第46章 かわいくない
【MさんとOさん】
side.M
かぁわいい。
熱を持った声が、耳にこびりついて離れなかった。
アンタのその声こそ可愛い。
そう思ったから、ほんの少しだけ反抗的な気分になった。
きっと、そういうのも可愛いと言うだろうけど。
「かわいいって言われんの、やっぱり嫌?」
上目遣いで、こちらを窺うように大野さんが言う。
水分を含んだように見える瞳に抗える訳が無かった。
昔から弱かったんだから。
「嫌だよ。アンタに言われるのがどうこうじゃないけど」
そう、それが一番の問題だった。
オレは可愛いなんて言われたくない。
だけども、アンタに言われるのが嫌ではない。
他なら意地でも否定するだろうけど、とっくに絆されてる。
本来なら心底イヤなのに、アンタが言えば流されてしまう。
それって怖いことだ。
自分が、自分でないような気がして恐ろしくなる。
「そっか。なら良かった」
幼さの際立つ笑みは、誰がどう見ても可愛かった。
ほら、オレよりもアンタの方が。
「あなたが一番、可愛く見えんだけど?」
少し棘のあるオレの言葉は、何でもないように受け止められる。
愛しさを滲ませて笑うアンタは、悔しいことに大人の顔だ。
あぁ、オレの恋人が今日もカッコいい。
素直に言えないけれど、堪らなくそう思った。