• テキストサイズ

小話【気象系BL短編集】

第45章 はめられた指環



【OさんとSさん】

side.S

陽に焼けた手、その左の人差し指。
オレにとっては驚くべきことに、指環がはめられてあった。
昔、ネックレスをしていたのは覚えている。
だけども、何で、指環なんて。

それなりに深い間柄の恋人でもいるのか?

思い浮かんだことにゾッとして、首を振って打ち消した。
このひとがどれだけ魅力的なのか、魅惑的なのか。
身を以て知っている。
だから、だからこそ、だ。
誰も手中には収められない筈だと、そう考えていたんだ。


だが、違うのか。違ったのかな。
あなたは、誰かのものになってしまうのだろうか。
あぁ、何て、嫌な話だ。


「……翔くん?そんなに見られると、穴開いちゃうよ」

「っ、ぇ、いや。ごめん」


どうやらじっと見ていたのがバレたようで、内心焦ってしまった。
怪訝に思われるのもアレだし、心配されるのもちょっと。
嬉しいとも感じるけど、それ以上に不安にもなってしまうから。


「んー?あぁ、もしかして、コレ?」


ひらひらと手を振るあなたが浮かべるのは。
今一つ感情の読み取れない、けれど含みのある薄ら笑いだ。

あなたらしからぬ表情だ、と胸の内が騒ぐ。
どんなことでも知りたくて、知らない一面をいっそ暴きたいくらい。
自分が知らないというだけで、オレはオレでいられなくなるんだからさ。

知りたい、教えて、暴かせて。
凶暴なまでの衝動に、我知らず突き動かされる。


「誰にもらったの?ペアリングとかじゃないよね?」

「あはは、気になるの」

「気になるでしょう。あなたのことなんだから」


きつくなった口調にも、いつも通りに微笑み返される。
オレの一つ上だったよ、このひと。
そうでなくても、恐らく泰然自若としているんだろうけど。

顔が逸らされ、つつ、と親指が指環をなぞる。
その視線は寂しそうでもあり、どことなく愛しさも窺える。

そんな風に思われるのは誰だ?
ぞっとしないことだ。その幸せ者は、どこの、誰?


「智くん、教えてよ。その指環は、どうしたの?」

「お前が、ちゃんと…………俺のこと見てたら分かる」




/ 291ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp