第12章 幸村のターン
太陽が昇り始め、暗かった廊下が少しずつ明るくなってきた頃、部屋の中から幸村を呼ぶ声が聞こえた。
『真田幸村、そこにいるのなら部屋に入れ』
『はい。失礼いたします』
初めての氏政との対面に姿勢を正す。
『今そこで寝ているのが織田信長の寵姫の直美だ。小太郎の代わりにしばらく護衛を頼む』
氏政のすぐ近くにはまだ横になって寝ている直美の姿があった。
(寝てる……あ?まさか同じ褥でか?ま、まさか夜伽相手にされてたんじゃねーよな?)
真っ赤になった幸村の顔を見て氏政が微笑しながら口を開いた。
『何を想像しているのか大体検討がつくが、おそらくその通りだ。俺は直美を正室に迎え、織田信長を倒して天下を統一する』
(はぁ?その通りだと?こいつ何言ってんだ!)
ちらりと横目で直美を見ると、首に傷があるのが見える。
(あの傷、騒ぎがあった時にやられたのか。信長が見たら怒り狂いそうだな)
『この真田幸村、命に代えても護衛の務めを全ういたします』
思う事も言いたい事も山の様にあるのだが、ここは冷静に振る舞う。
『粛清はかなり進んだ。そろそろ部屋を出ても大丈夫だろう。起きたら息抜きに城下町にでも連れて行ってやれ』
それから直美が起きるまで幸村と氏政は囲碁勝負を行った。
結果は幸村の連勝に終わった。
何度勝負しても幸村が負ける事はなかった。