第12章 幸村のターン
氏政の部屋の奥では直美が読み書きの練習をしていた。
少し離れた所では小太郎と氏政が向かい合って話をしている。
『顕如が信長にやられ、それを知った氏照が痺れを切らして天下取りを狙った。だが失敗した。俺の食事に度々毒を盛っていたのも氏照だったな』
『はい。粛清は順調に行われています』
『これで邪魔者は消えたが、氏照の抱えていた兵がほとんど使えなくなると北条軍の縮小はやむを得ない』
『同盟国から兵を集めるにしても少し時間がかかるでしょう』
少しの沈黙の後、氏政は不敵な笑みを浮かべながら小太郎に告げる。
『小太郎、お前の里の忍を北条の兵として仕えさせる。もし断ればどうなるか分かっているな?』
『それは最初の条件には入っていないはずですが』
『状況が変わった。大人しく言うことを聞いていれば里には手を出さぬ』
『…………』
『騒ぎが起きた今こそが一番狙われやすい時なのはわかるな。やられる前にやらねばならん』
2人の会話はもちろん直美にも聞こえている。
(もしかしてこれって脅迫?今の話だと小太郎さんは自分の里が北条に奪われない事を条件に北条家に仕えてるって事?)