第11章 小田原城再び
突然の物騒な置き土産のおかげで落ち着かなくなってしまった。
眠くなるまでしばらく読み書きの練習をする事にする。
紙と筆を用意していると廊下から声が聞こえてきた。
小太郎はまだ戻っていない様だ。
『直美様、氏政の弟の氏照と申します。
少しだけお時間よろしいでしょうか』
弟の存在は知っている。
あまり外部と接触を持たない氏政の手足となって動いていると聞いていた。
確か史実では兄弟の仲は良かったはずだ。
(部屋から出なければ大丈夫だよね)
文机にあった不審な和菓子で不安になっていたこともあり、迷う事なく襖を開けていた。
だが…
襖の向こうに立っていた氏照は手に短刀を持っている。
危険を感じ、とっさに部屋の中に逃げるがあっという間に距離を詰められ背中が壁に触れた。
喉元に短刀を突きつけられ身動きが取れない。
体が震える。
『な、何が目的なんですか』
そう聞くだけで精一杯だった。