第10章 顕如
静まり返った城の中に顕如の部下はすでに一人もいない。
残っていた部下たちは地下に掘られた隠し通路を使って城の外に出たのだが、近くの寺に逃げ込んだところを三成が配置した兵に見つかり捕縛されていた。
信長が広間に入ると、奥にいた顕如が無言で立ち上がる。
持っていた錫杖で行灯を倒すと、そこから炎が燃え広がっていった。
『本能寺ではあの女の力のおかげで上手く逃げた様だが、今度は逃がさんぞ』
『運も実力のうちだ。貴様は己の運のなさを呪うんだな』
炎に囲まれながら睨み合いが続く。
先に動いたのは顕如だった。
錫杖の先が信長の鼻先をかすめる。
身を反らせて避けた信長は腰の刀を素早く抜いた。