第10章 顕如
織田軍が動き出したのと同じ頃、軒猿の2人と共に幸村が小田原城へと馬を走らせていた。
上杉武田軍も綿密な計画の元で動き始めていた。
数刻後ー
幸村は北条からすでに即戦力として認められていたおかげで、疑われる事なく小田原城へ入り込む事に成功した。
北条に仕える事については以前から厚待遇を約束されていたが、あえてそれを断り別の条件を提示していた。
もちろんそれは信玄からの提言であり、北条側は知るよしもない。
それは以下の内容だった。
『小田原城に織田信長の寵姫が囚われているとの噂が信濃にも届いております。
その噂が真実であるなら、この真田幸村にその姫の監視と護衛をお任せいただきたい』
これこそが真田から北条に出した唯一の条件だった。
かなり大胆な条件にも思えたが、今までの様に小太郎を24時間ずっと直美に付けておくのも無理がある。
そのため、小太郎が別の任務で留守の時に幸村と交代するという事で無事に話がついた。
『よし!これで何とかあの女に接触できそうだな。だけどあの女、どんな顔してたか正直もう覚えてねー……ま、何とかなるか!』
森の中で始めて会った夜、直美から今が何年なのかと聞かれたのは記憶にある。
あの時は転んだ拍子に頭でも打ったのかと思った。
(あの女が信長の寵姫?わけわかんねー)
ぶつぶつと独り言を呟きながら小田原城を後にして城下町へと足を進めた。