第41章 ズッ友と買い物
『直美…』
『はい』
謙信に名前を呼ばれるととても緊張する。
『男が女に着物を贈る意味を…いや、知らずとも良い。名を変えてまでこの時代に残ると腹をくくった以上、織田家ゆかりの人間として恥じぬ様に生きろ』
『はい…謙信様、ありがとうございました』
本当なら直美を安土に帰さず、このまま春日山に逗留させたい。
しかしそれは自分の我が儘で、もしその様な事になれば再びワームホールが現れる事を謙信は分かっていた。
『だがもし…安土で涙を流す様な事があればその時は俺がお前を攫う。たとえこの先の歴史が変わろうともな』
頬に手を添えられ、優しく微笑んだ謙信の顔が近づくとそっと唇が重なる。
と、同時に部屋の外から景家の声が聞こえてきた。
『謙信様、安土城より直美様のお迎えのため織田、徳川の二人が到着致しました。広間にてお待ちいただいております』
触れるだけの口づけはほんの一瞬の事で。
『わかった。すぐに向かう。先に広間に戻って茶でも入れてやれ』
景家の足音が遠ざかると再び唇が重なった。
『とんだ邪魔が入ったな。残念だが時間切れの様だ』
そう言うと今度は素早く腰に手を回し、体を引き寄せ再び唇を重ね舌を絡ませる。
お互い上手く言葉に出来ない気持ちを、別れを惜しむかの様にこの最後の口づけに託す。
どちらからともなく唇が離れると、至近距離で目が合った。
『そんな表情をして煽るな…』
『そんなつもりありません!謙信様こそ…』
『ああ、この続きはまた今度だな。さて…広間に行くぞ』
また今度、それがいつになるかは分からないけれど。
今生の別れではない、そう思えただけで今は充分だった。
それから部屋を出ると謙信の背中を追うように広間へとゆっくり歩いて行った。