第40章 最後の勝負
信長からもらった懐刀が戻ってきたということは、姫鶴を模した懐刀は当然今後は所持する必要がなくなる。
元々景家のいない所で謙信に直接返そうと思っていたのだから今は返すのには絶好のチャンスだった。
『あの、謙信様…』
『ん、何だ?』
『ずっとお預かりしていた懐刀ですけど』
『ああ、そのまま持っていろ』
『え?……そのまま?』
返すと言い終わる前に持っていろと言われてしまい、上手く言葉が見つからない。
もちろん2本を懐に忍ばせて持つことは可能だけれど、そんな事が許されるのだろうか。
『直美、何を不安そうな顔をしている。この2本があれば信長の領地とこの越後では不自由しない。使い方など覚えなくともよい、己の身を守るために持っていろ』
謙信の言っている事は十分理解できる。
この越後の地でも、安土城に戻ってからも懐刀の存在は自分の身を守るお守りみたいな物なのだ。
『返すと言ったところで受け取らぬが…』
『え?何か言いましたか?』
謙信が小さく呟いた言葉は外から聞こえる音に掻き消される。
『いや、何でもない。今日の勝利の祝いは信長たちが来てから行う。おそらく数日以内には来るだろう。それまでは好きなことをして過ごせ。可能な限り傍にいる』
『本当にありがとうございます』
信長の懐刀が直美の元に戻ってくる条件を知っていた謙信は、仕事が出来たと言って直美の部屋を出ていく。
そして真っ直ぐに向かったのは信玄の部屋だった。