第40章 最後の勝負
城の中がガヤガヤと賑やかになっていくのを感じる。
部屋にいるように言われていてもやはり外の様子が気になって仕方がない。
気づけば何度も襖を開けたり閉めたりしていた。
(謙信様たち戻ってきたんだよね。誰も怪我してなけれぱいいんだけど…)
そわそわしながら外の音に耳を澄ませ、部屋の中をぐるぐると歩いては襖を開き。
そんな事を数回繰り返していると、ようやく視界の奥に謙信と景家の姿を捉えた。
部屋からひょっこり顔を出して手を振ると、そこから謙信だけがこちらに向かって歩いてくる。
『謙信様!おかえりなさい!』
まっすぐ部屋に来てくれた謙信におかえりなさいの挨拶をして招き入れる。
『約束は守ったか?』
『はい。誰にも指一本触れさせていませんよ。謙信様はどうだったんですか?』
『ああ、つまらぬ戦いだった。俺一人で十分だったな。移動の時間の方が長いくらいだ』
ふと謙信の視線が並べて置いた2本の懐刀へと移る。
『そうか、返してもらったのだな。信長からの条件を受け入れたということか』
『信長様から?何かあったんですか!?』
信長が懐刀のことで信玄に話をつけると言ってくれたのは覚えていたのだが、その後どうなっているかを知る事はできず、偶然今回の囲碁勝負に発展したのだとばかり思っていた。
だが詳しい内容を信玄が言っていないのなら、謙信から説明するつもりは一切ない。
『時が来れば必ず分かる。信玄が何も言わぬのなら信長から直接聞けばいいだろう』
『そうですね、そうします』
もしかしたら信玄がわざと勝負に負けた理由も知る事が出来るかもしれない、そう思えて仕方がなかった。