第40章 最後の勝負
『最初に勝負した時より随分と腕を上げたな。約束だ、これは返そう』
手渡された刀は間違いなく信長からもらった懐刀で。
久しぶりに自分の元に帰ってきたことに心の底から安堵する。
(良かった…)
『信玄様、約束を守っていただいてありがとうございます』
『俺と姫を繋ぐ物を手放すのは惜しいが、男に二言はない。長い期間すまなかった』
(すまないだなんて、もしかしたら後ろめたい気持ちでもあったのかな)
『もし…小田原城の天守で信玄様に懐刀を拾われてなかったら一体どうなっていたんでしょうね』
『もちろん懐刀なんかなくても姫をこの手で捕まえていただろうさ。刀を取り上げるのは捕まえてからでも遅くないしな。どちらにしても同じってやつだ』
確かにあの時の状況では、謙信と信玄を前に逃げる術などない。
『おっと、早ければそろそろ謙信たちが戻ってくるかもしれないな。俺は部屋に戻るから何かあったら叫んで呼んでくれ。姫のためならすぐに駆け付ける』
『ふふっ、わかりました』
じゃあなと言いながら手をひらひらさせて部屋を出ていく信玄を見送り、先程まで真剣勝負をしていた碁盤に目を向ける。
(勝った……あれ?ちょっと待って!!信玄様、もしかしてわざと負けたの?何で!?)
急いで部屋の襖を開けて信玄の姿を探したがすでにそこには気配すらなく。
(どうして…………)
一人残された部屋で片付けをしながら理由を考えても何も検討がつかない。
戻ってきた薬研藤四郎と姫鶴一文字の懐刀バージョンを並べて見つめながら、勝負の過程を走馬灯のように思い出していた。