第40章 最後の勝負
『私も謙信様の事は好きです。私にとってとても大切な方です。でも…』
『でも?』
信玄は直美を見つめながらその言葉の続きを待っている。
『謙信様とは一緒にはなれません』
自分の中ですでに結論は出ていたのだが、それを言葉にするのはやはり勇気がいる。
『断言するからにはおそらく相当な理由があるんだろうな』
『はい。歴史をこのまま変えないために謙信様と一緒になる訳にはいかないんです』
(歴史上の上杉謙信は生涯誰とも夫婦にはならなかった、これは私でさえも知っている有名な事実だもの)
『謙信には伝えたのか?』
『いえ、まだです。信長様が迎えに来る前に伝えた方がいいですよね』
『んー、斬られる覚悟があるのならな』
『え!斬られる!?』
『ははっ。冗談だ。歴史が変わると知って謙信がどう出るかだな……すまないが正直検討がつかない。たが力になれることがあれば頼ってくれ』
『ありがとうございます』
胸に秘めていた気持ちを打ち明けた後は憑き物が取れた様に心が軽くなっていて。
再び碁盤を挟んでの真剣勝負を開始する。
『例えば俺がこの勝負に勝って、姫に口づけたとして…それで歴史が変わってしまうなんて事はないのかな?』
交互に碁石を置きながら会話も自然に再開していく。
『どうでしょう?それを謙信様に見られて信玄様だけ斬られてしまう展開ならあるかもしれないですよ?』
『ありえるな。だがこの勝負、姫の勝ちだ。これで謙信に斬られる心配はなさそうだな』
勝負の再開後、あまり時間が経たないうちに2戦目の決着が付いたのだった。