第40章 最後の勝負
口にしているのは先日幸村の部屋で食べた柿と同じ物。
もちろん味は変わらないはずなのだが。
(美味しいんだけど…)
食べれば食べるほど頭の中に浮かんでくるのは謙信の事ばかり。
柿よりも甘く、とろける様なあの口付けとその後の濃密な時間が頭の中に浮かび上がる。
(…あれは確かに柿より甘かったなぁ……)
何かを考えながらしばらく無言で柿を食べ続ける直美の姿から信玄は目が離せない。
『姫?……姫?おーい、聞こえてるか』
『あ……あっ、はい!』
『美味しいと言ってる割に難しい顔をしてたぞ?一体何考えてたんだ?』
『いえ、何も考えてないです』
『そうなのか?何か気になる事でもあるんじゃないのか?例えば謙信の事とか、違うかな?』
突然出てきたその名前に思わずぴくりと反応してしまう。
『おっと、当たりみたいだな』
得意気な表現の信玄を真っ直ぐに見つめ返した。
『なぜそう思われたんですか?』
『そうだな……勘だよ、男の勘ってやつだ。今の君は離れた場所にいる人を想う顔をしている。謙信の事も近くで見てきたから分かるが、姫が再び春日山に来てから謙信との距離が縮まった様に見える』
『距離ですか……確かに初めて会った時よりは随分縮まったと思います』
本当の事を言えば縮まるどころではないのだが、今はそこまで赤裸々に語る必要はないと適当な言葉を探して答えていく。
『一乗谷で確信したが謙信は姫の事が好きだ。姫はどうなんだ?謙信の事、好きなのか?』
ストレートな直球の質問に何と答えるべきなのか、言葉を選ぶため静かな時間が流れていった。